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カラス
 「アンドロイドが、感情移入度測定調査にかぎって、なぜ無残にも馬脚をあらわすのかーーたいていの人間が一度は抱くその疑問を、リックは考えてみたことがある。ある程度の知能が、クモ類を含めたあらゆる門と目<もく>の生物種に見いだされるのに対して、感情移入はどうやら人間社会だけに存在するものらしい。ひとつには、感情移入能力が完全な集団本能を必要とするからだろうか。たとえば、クモのような独居性生物はそんなものに用がない。それどころか、あればかえって生存能力の障害になる。クモが餌食の身になって相手の生きたい気持ちを思いやったりしたらたいへんだ。これはクモだけでなく、あらゆる捕食者にいえることで、猫のように高度な発達をとげた哺乳類でも餓死せざるをえなくなるだろう。
 感情移入<エンパシー>という現象は、草食動物か、でなければ肉食を断っても生きていける雑食動物にかぎられているのではないかーーいちおうそんなふうにリックは考えている。なぜなら、究極的には、感情移入という天与の能力が、狩人と獲物、成功者と敗北者の境界を薄れさせてしまうからだ。(中略)だれかが喜びを経験すれば、ほかの全員もその喜びの断片を共有できる。だが、もしだれかが苦しみを経験すれば、ほかの全員もやはりその苦しみの影から逃れられない。ヒトのような群居動物は、それによって一段高い生物因子を獲得する。一匹狼的なフクロウやコブラは、逆に破滅に近づくだろう。
 人間型ロボットは、どうやら本質的に独居性の捕食者らしい」
(早川書房『アンドロイドは電機羊の夢を見るか?』フィリップ・K・ディック著 浅倉久志訳より)

最近、近所の公園の林に大量にカラスが居着いていて、部屋からでも鳴き声が聞こえるのだけど、そういやカラスも感情移入するのかな、などと思った。
| - | 21:09 | comments(0) | trackbacks(0) |
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